億劫

昔、とある企業でバイトしてたことがある。職場では立場的に一番下っ端だったこともあり、来社する人の応対(というか、来社した人を社員に取り次ぐだけだが)もそれなりにやらされていた。

応対してて一番イヤでイライラさせられたのが飛び込み営業、特に先物取引屋(?)とオフィス向け自販機屋だった。何がイヤかって、なにげに失礼な営業トーク(自分は丁寧な営業トークをしているつもりなのかそれともわざとああやっているのか知らないが)と、あのいやらしい商業スマイル。あいつらって露骨に目に「¥」マークが見えるんだもん。下手に忙しい時にこんなのにこられるともう最悪で、私もバイトの分際でありながら露骨に不機嫌な態度になっていた。

と、ここで、自販機屋の営業バイト経験があるかたの日記を発見。

http://d.hatena.ne.jp/aikawa8823/20040403#p1


飛び込み営業には勢いが大切なので、まずわたしが切り込むことにしていた。マニュアル通りに挨拶をして名刺を渡して、などということはしない。ちょっと引くぐらいの大声で「こんにちはー!」と言いながらずかずかと入り、一番偉そうな人の元へ一直線に突き進みコーヒーの試飲を頼む。相手に考える隙を与えずにすぐにコーヒーを飲ませてしまう。そして職場の人が全員おいしいと言ったら買うという約束を強引にこぎつける。ここでミホちゃんの出番。ミホちゃんは胸がはちきれそうな白いシャツのボタンをギリギリまではずした狂気の沙汰としか言いようの無い格好でコーヒーを配る。透けているブラの色はいつも黒だった。ミホちゃんが巨乳ギャグをかますその脇でわたしがアンケート用紙を記入していく。大抵の男性が「お…おいしいんじゃないかな…」と言うので、「おいしい」の欄にサインを貰う。ちなみに女性には気づかないふりをして飲ませない。そして一番偉い人の元へ行き、その旨を伝えて無事契約成立。

この文章を書かれた相川さんのコンビではないと思うけど、まさにこんなタイプの営業に来られたことがある。上記の文章では「女性には気づかないふりをして飲ませない」とあるが、この手の営業にはもう一つメソッドがあるらしく、「マズイ」と言った人間はカウントしないようだ(まあ、当然と言えば当然だが)。

こっちは仕事が立て込んでて、さらにウザい営業がデカい声張り上げてズカズカと入ってくるのを見て気分は最悪。そして追い討ちをかけるように、目に「¥」マークをつけた営業スマイルをたたえた売女がコーヒーを持ってこっちにやってくる。「どうですかぁ?」と聞いてくるので一口だけ飲んで「マズイっすね、なんかケミカルな味がしますね」と相手を見ずに答えておいた。

別にオフィスに自販機が入ろうが入るまいがどうでもよかったので(私にはコーヒーを飲む習慣がない)そのまま仕事に戻ったのだが、直後に職場のボスに呼び出された。

ボス:「おーい、ちょっとこいよ」
私:「はい、なんでしょう?(なんすかこのクソ忙しい時に)」
ボス:「(自販機屋が集計したらしき紙を見ながら)おまえの名前がないけど、コーヒー飲んだ?どうだったよ?」
私:「(死ねよクソ営業!)あー、マズイっスね。飲めないっスよあんなの」

私は別にどうでもよかったのだが、結局自販機が入ることはなかった。

話は少しそれる。このバイト先の正社員で普段は口数も少なく温厚な人(Aさんとする)がいたのだが、ある日そのAさんが突然どこかの飛び込み営業に向かって

「なんだその無礼な態度は!帰れ!(大意)」

と声を荒げたときには私を含めフロアに居合わせた全員がびっくりした。それと同時に、私は殆ど言葉をかわさないAさんに妙な親近感を持った。

ある日、どこかの飛び込み営業がAさんに面会を求めてきたときに、その旨をAさんに伝えたのだがその時Aさんが冗談交じりに言った言葉が面白かった。

「あのさー、そういう時は『Aはライオンに咬まれて死にました』とか言ってくれなきゃー」

そう言いながらAさんは飛び込み営業が待つ方向へ歩いていった。

本当にどうでもいい昔の話。